公開Q&A

同志社女子大学生のための教職アプローチ第5版p57-p67

質問:合格しても、もし希望校種でない特別支援学校に配属になったらやっていく自信がありません

ラボ子からの回答:
特別支援学校では複数担任制を取るところが多く、チームプレイが求められることが多くなります。また障害を持つ子どもを育てている保護者との関係も、一般校と比較すれば、はるかに濃いものとなります。

つまり他人と合わせて仕事ができる協調性と、保護者の話を傾聴して適切に応答できるコミュニケーション力が、一般校の教員以上に求められます。特別支援学校と一言で行っても、盲・聾・知的障害・肢体不自由など、障害種によって違います。例えば盲や聾の特別支援学校でしたら、知的には遅れがなく、視力や聴力のみがハンディキャップの生徒から、視覚や聴覚に課題があり、かつ知的障害で肢体不自由といった重複障害の生徒まで様々です。

知的障害特別支援学校には、自閉症スペクトラムの生徒が多くいます。肢体不自由児の特別支援学校では、全介助が必要なお子さんには、ほぼマンツーマンで食事や身体の指導をしています。また、最近では総合特別支援学校と言って、障害種で区分せずに、一つの学校内で教育する特別支援学校も登場しています。

いずれにせよ、障害に対する知識量は、一般の大学の教員養成のカリキュラムだけでは絶対的に足りず、仕事をしながら専門的な知識を自分で吸収していくしかありません。いつまでも特別支援教育に対して、「知りません。」「わかりません。」の連続では、いずれは保護者に信頼されなくなります。

もちろん新任の間は、わからなければ素直に「勉強不足です。教えてください。」と言っても、それは全然かまわないと思います。むしろ一人でできる範囲を超えていると思ったら、「どうぞ私を助けて下さい。」と素直に言える人であることが大切です。勝手な判断で動くと、子どもの命に関わることもあるからです。

書店に行くと、現在、発達障害の本が数多く出版されています。イラストを多く取り入れた読みやすい本もたくさん出ています。不安でしたら、まずは発達障害の勉強からゆっくり始めてみませんか。

質問:特別支援学校の教員免許状は取れない大学に通っています。でもボランティアで出会った特別支援学校の子どもが可愛くてぜひ支援学校の先生になりたいと思いました。中高の教員免許は取れます。今後どうやったら特別支援学校の教員免許が取れますか?

ラボ子からの回答:
特別支援学校の教員免許状は、以前は取得できる大学が非常に限られており、教育大学などで特殊教育を専攻した一部の人しか持っていませんでした。つまり多くの教員が、小・中・高の教員免許状だけで仕事をしていました。しかし今は文部科学省が、特別支援学校に勤める教員には、特別支援学校の教員免許状を取るように強く勧めています。

教員にはすでに、小・中・高のいずれかの免許状があるため、取得したい免許状に対して、足りない単位だけを揃えていきます。例えば、知的障害の教員免許状(2種)ならば、4科目8単位の追加になります。(注:盲・聾・肢体不自由も含めた教員免許状ならば、この科目数では足りません。)

仕事をしながら特別支援学校教員免許状を取る方法は主に2つあります。ひとつは夏期休業中などに大学などで行われる認定講習への参加です。いわゆる集中講義です。授業を受けてから試験を受けるので、系統立てて学べる、わからないところは直接質問できる、講義内容と試験問題が重なるので勉強しやすいなどのメリットがあります。しかし時間的な拘束が、忙しい教員にはネックになっています。もう一つの方法は、放送大学の活用です。この場合は自宅で映像とテキストで進めていきますので、ほぼ自学自習になります。試験問題は記述式ではなく5択ですので、教育実践を重ねた上で、テキストをしっかり読み込んでいけば、まず合格点は取れるようです。その後は、単位取得証明書を教育委員会に提出し、認められれば免許状が授与されるという流れになります。

質問:自分で望んだ教職なのに、あまりに忙し過ぎて辞めたくなってしまいました。

ラボ子からの回答:
仕事をするということは、よりよい生き方をしたいという姿勢の一つです。仕事をすることによって勉強もし、より深くものを考えます。それは自分が成長することでもあります。そうやって希望に満ちてスタートした教職なのに、忙し過ぎて辞めたくなってしまっているのですね。その忙しさが、個人の努力や工夫で解消されるレベルの忙しさなのか、それとも仕事の絶対量が多過ぎるのかを振り返ってみてください。

もし後者でしたら、それは個人だけの努力では無理なので組織全体で考えていく必要があります。お一人で悩まずに管理職に相談してください。このまま働き続けて、あなたがある日突然燃え尽きてバーンアウトしてしまうことは、管理職にとってもマイナス評価になります。あなたの大変さをきちんと伝えていくことで、なんとか職場全体で仕事量を調整し合う方向で動けばと期待します。近年、教師の精神疾患が増えています。仕事量がすでに個人の限界量を超えていることや、保護者対応への精神的負担が、教師のこころを蝕んでいます。一般的には、教師や看護師などの対人援助職は、鬱になったり燃え尽きてしまう割合が高いというデータもあります。

ペース配分を無視したら、たちまちこころは疲れてしまいます。最初から最後までマイペースで走り続けるには、こころが発するSOSのシグナルを日頃から自分でしっかり立てておくことが大切です。こころの疲れはケアするのが早ければ早いほど、回復にも時間がかかりません。仕事、遊び、趣味、友人や家族やペットの世界のこの4つの世界を持っていると、この中の一つがうまくいかなくても他でバランスがとれ、メンタルヘルスを保ちやすいと言われています。もし今、自分の世界が仕事だけになってしまっているのであれば、遊びや趣味や友人との時間を意識して作っていくこともまた、こころの健康に大きく貢献します。

質問:教師と生徒との適度な距離感がわからず、つい友達のようになってしまいます。生徒から「LINEのアドレスを教えてほしい」と何度もお願いされて困っています。

ラボ子からの回答:
三歩下がって師の影を踏まず・・・などという言葉は遠い昔になってしまいました。今では親子関係ですら友達のようになり、第2次反抗期すらない子も増えてきました。そんな中では、教師と生徒の関係も、つい友達同士のような関係になりがちな時代です。でも本当にそれでいいのでしょうか。

「教師にはちゃんと敬語を使いなさい。」という指導は、社会に出たときに目上の方にきちんとした言葉使いができて欲しいという思いからです。それができないと、その生徒が社会人として世に出たときに、どんなに実力があっても礼儀知らずで嫌な奴だと低く評価されてしまうからです。学校の役割は、教科指導と共に、社会化(ソーシャライゼーション)することもあるのです。

若い先生は、生徒にとっては身近なお兄さんやお姉さんのような存在になるでしょう。最初は〇〇先生とは呼んでもらえず、あだ名やニックネームで呼ばれることもあるかもしれません。問題は、あなた自身がそれで良しとするか否かです。「〇〇先生と呼びなさい。」ときちんと言えるか、それとも、あだ名の呼名でもOKとするか。それによって、あなたへの教師像が変わってきます。

自宅の住所や電話番号を教えたり、携帯電話の番号を教えることで、一時は生徒との親しさが増すかもしれません。しかしそのことによってあなたのプライバシーは完全に無くなります。プライバシーがなくなることのデメリットとして、あなたが完全にリラックスできる時間と空間の確保を難しくします。またLINEなどSNSで生徒とつながってしまうと、ネットを介して24時間つながり続けることになり、生徒とあなたは適度な距離感を保てなくなるでしょう。あなたと生徒は一見友だちのように見えても、教員であるあなたの方が、力関係では絶対に上になります。生徒の方から削除申請したくても先生という存在には言い出しにくいものです。今のような時代だからこそ、教員の側が、ある程度、生徒との距離感を作っていくことが特に大切なのではないかと思います。

質問:教員免許状以外に、ぜひ取っておいた方がいい資格などはありますか

ラボ子からの回答:
運転免許証は時間のある学生時代に取っておくほうがいいと思いますが、新人時代はまずは教員の仕事に全力投球しましょう。教員は教員免許状がなければできない専門職です。

クラス運営、教科指導、部活指導、保護者対応など、やるべきことや覚えることはたくさんあります。やがて中堅になり、ある程度仕事の基礎が出来てくると、自分のポジションや役割が見えてきます。その時に生徒に還元できるという観点で、資格や試験というものを考えていけばいいのではないでしょうか。

TOIECや英検、漢検は、教師が挑戦している事実それ自体が、生徒にとっては大きな刺激になるでしょう。またクラスの中に、皆とうまくなじめない生徒がいたとして、担任にエンカウンターやカウンセリング、特別支援の視点があれば、適切なサポートができるかもしれません。この勉強の延長線上には、特別支援教育士や学校心理士、臨床心理士のような資格があります。成績処理や文書作成でのパソコンのスキルを上げたいという延長上に、パソコンや情報処理に関する検定試験があります。探せば他にも色々あるでしょう。

いずれにせよ、せっかく資格試験の勉強をするのでしたら、単に資格取得のための勉強に終わらせず、その勉強を通して生徒に還元できたり、仕事自体の広がりにつながることが理想です。資格試験の勉強を通して、それまでバラバラだった知識が系統立てて整理されていくことも多く、時間とお金をかけるだけの価値はあると思います。

ただ試験を受けると決めても、環境が整わないと勉強できないという姿勢ではうまくいきません。仕事をしながらの準備になるとなおさらです。電車の中でもトイレの中でもそこが教室であると思って、頑張ってください。

質問:大学院で更に勉強したいと思うようになりました。仕事を辞めずに進学できる方法はありますか。

ラボ子からの回答:
あなたの都道府県に、長期研修制度があれば、それを活用する方法があります。この制度を利用して、進学や留学をしたり、海外青年協力隊や海外シニア協力隊に参加し、帰国後その経験を生徒に伝えている教員もいます。ただしこの期間は無給となります。

有給の制度には、内地留学があります。ただしこれは学校長の推薦が必要で、その後、さらに教育委員会内での選考があります。ほとんどの場合、この教育委員会内での選考で合否が決まります。内地留学は希望者が多いので、落ちる人も当然います。何度か挑戦すれば熱意が通じて、いつかチャンスが掴めるかもしれません。

研究計画書の提出と個人面接があります。合格が出れば、その後は一般の受験生と一緒に大学院入試を受けますが、各教育委員会からの推薦がある人はほぼ落ちません。ただし競争率の高い専攻になると第2希望の専攻になっても必ず進学するという教育委員会との約束のもとで受験します。現在のような財政難の中にあっても、各都道府県が内地留学制度を残しているのは、優秀な教員を派遣することで、卒業後に自県の教育界への貢献を期待しているからだと思います。

仕事をしながら学ぶならば、夜間の大学院という選択肢もあります。長期履修制度をあるところを選べば、仕事との両立が可能かもしれません。大学院後期(博士課程)になると、ぐっと授業数は少なくなります。研究テーマがはっきりしていて、ある程度自分で論文が書ける力があれば、電子メールでの論文添削指導や、テレビ電話の活用などで、時間と距離を埋めながら仕事を辞めずに研究を続けることはできると思います。ただし、研究者の中には、研究を甘く見ているとして、仕事をしながら研究いう姿勢を嫌う方も当然いらっしゃいますので、このような指導方法が可能かどうかは、担当の指導教官次第だと思います。

質問:将来、仕事と家事を両立できる自信がありません。

ラボ子からの回答:
まず、自分だけが全ての家事をやらねばならないと考えるのは止めましょう。無理のない範囲で家族やパートナーと分担して、皆で家事ができるといいですね。・・・と書いておいて何なんですが、残念ながら私は一人で頑張らざるを得ない状況だったので両立は精神的にも体力的にもかなりきつかったです。あれをもう一度やれと言われたら今なら無理です。絶対にできません。親が忙し過ぎると、必ずどこかで子どもにしわ寄せが来ます。優しい子ほど親に遠慮して我慢していることを忘れてはいけません。

だから無理に両立せよとは絶対に言いません。子どものために辞めるというのも立派な生き方だと思います。家に帰ったときに「おかえり」と言ってもらえるだけでも子どもは安心するのです。まだ実家暮らしですのに、将来の仕事と家事の両立にすでに悩まれているようですが、両立、つまり働き続けられるというのは、本当に恵まれた人だけができることなのです。あなた自身が健康で、世話をしなければならない病人が家に居ず、働ける職場があるという恵まれた現実にまず感謝しましょう。

頭が混乱してきたら、足元を固めること。身近な人を悲しい思いにさせないことが大切です。家事をするのは家族が気持ちよく暮らす為であり、疲れ過ぎてまでもする必要はないし、家族の一人でも不愉快になるやり方でしなければならない家事なんてありません。家事は時間をかければどこまでも深められますが、短縮しようと思えば色々な工夫ができます。

今は色々な調理器具があります。冷凍庫の性能が良いので下ごしらえをした食材の長期の保存もできます。買い物がネットでできる時代です。掃除用ロボットもありますし、掃除代行業もあります。お金を出せば、その時間が得られるというときは、有職主婦はお金を惜しまないこともまた必要です。両立を考える上で大切なことは、「頑張りすぎないこと」です。あなたが疲れて倒れてしまったらそこで終了なのです。あなたが「いつも健康で笑顔でいること」がまず何よりの基本なのです。

食事・睡眠・スポーツ、この3つは手を抜いてはいけません。家の中がいつもきれいに片付いていると嬉しいものですが、そこで暮らす家族みんなが健康でとげとげしい気持ちを持たないことでいる方が、本当はもっと素敵なことなのです。掃除・洗濯・洗いものなどは、溜め込むと大変さが増します。用具を使いやすいところに常に置いておくなどの工夫で、気が付いたときにそのつど少しずつでもできれば、いつも気持ちいい住まいでいられます。家事本はたくさん出版されています。今からぼちぼち研究されてみても面白いかと思います。

相談:出産後、無事職場復帰したものの、今までのように自由に働けない自分に、もどかしさを感じてしまいます

ラボ子からの回答:
子育て期は、仕事を長いスタンスで考えるチャンスです。これまで仕事に100%全力投球できていた時期と比較すると、どうしてもペースダウンせざるを得なくなります。けれども、このペースダウンと言うのは、人生の様々なストレスに潰されないで生きていくことを教えてくれます。ペースダウンを受け入れて、この時期はファジー感覚で乗り切りましょう。

子育て期は、とにかく忙しく、家事や仕事や子どものこと全てが中途半端になりがちです。忙し過ぎて仕事を続けている意味さえ見失いそうになることもしばしばあります。実際、仕事を手離す人が多いのもこの時期です。

可愛い子どもを目の前にすれば、仕事など色褪せてしまう感情は理解できますし、子どもが健康でなければ、仕事を継続すること自体難しくなります。また、これまで男女差をそれほど意識していなかった人も、子どもが与えられると、今の日本では女性のみに過重な負担がかかる現実が迫ります。人生にとって何が大切かは人それぞれなので、仕事を辞める選択肢もまた尊重されなければならない生き方だと思います。

それでもあなたは仕事を続けようと決めたならば、保育園を子どもが友だちの中で共に学び共に遊び共に育つ場であると信頼しましょう。働いていることの後ろめたさから過保護状態が続いていないか、仕事に追い回されて子どもへの愛情表現がおろそかになっていないかを常に点検しましょう。そして子どもが病気をしたときは、濃厚コミュニケーションのチャンスだと思いましょう。子どもを持つと人を許すということがわかってきます。子どもが成長すれば、必ず代打のきかない仕事もできます。続けると決めたならば、細くてもいいから続けましょう。

続けていればきっといいことがあります。一旦止まってしまった機械は動かすには何倍もの力が必要です。でもわずかずつでも回っている機械ならば、ほんの少しの油でフル回転します。

 

 

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