新版K式発達検査

【全領域】K式検査から学ぶ授業や療育へのヒント集

「感覚」「視覚」「言葉とイメージ」の世界の違い

発達に特別なニーズのある子どもの世界を大きく3つに分けてみます。「感覚の世界」と「視覚の世界」と「言葉とイメージの世界」です。「感覚の世界」は、発達年齢でいうと大体1歳半くらいまでになります。「視覚の世界」は1歳半~2歳半前後くらいです。物を名称だけでなく用途でもわかるようになり,指さしや身振りでコミュニケーションできるようになります。でもやはり見えないものは見えないので,目の前にないものはイメージできません。だから視覚支援が有効です。

3歳以降は「言葉とイメージの世界」です。この段階になると言葉と想像力(イメージ)によって、環境に合わせて考えることが可能になります。だから先生方も言葉での指示が通りやすい印象を受けるでしょう。

子どもが住む世界の見極めが大切である理由は,それによって授業で使う教材やコミュニケーションの方法が変わってくるからです。例えば「感覚の世界」の子どもには,自分で触って自分で動かして自分で体感できる教材になります。「視覚の世界」の子どもには,絵カード・写真などが有効です。が,必ず並行して言葉の理解にもつなげていきます。

「言葉とイメージの世界」になれば,まず言葉で伝えてみます。それで伝わればそれでオッケー,少し難しそうならば視覚的な手がかりを添えて,子どもが理解しやすいようにしていきます。

検査に学ぶ作業の始点と終点

どこにどう検査器具を置くか,向きをどうするか,子どもの目の動き・手の動きをどうさせるか。これらは検査をするときにとても大事なことです。積木課題においても積木同士を何㎝あけるとか,お金の課題でも何㎝あけてどの順番で並べるのかなど,実施マニュアルで全て決まっています。

ここは適当ではいけません。検査器具の置き方が検査において重要な理由は,その置き方ひとつで子どもの活動の始点が変わってしまうからです。そして始点が変わることで子どもの手の動き方が変わるからです。

正中線(体の中心)を超える活動ができるかできないかは,子どもを理解する上でとても大切な視点になります。また、たまたま自分の前にあったからそれをはめたのか,それとも自分でちゃんと考えた上でわざわざそこに入れたのか。このことを見極めることはとても大切です。

普段の授業でも教材の置き方を少し変えてみるだけで,子どもにとっての教材の難易度は大きく変化します。授業の時にも,教材をどう置くか,何と何を関係づけさせようとしているのか,子どもの目と手の動きをどう導くのかなどについて関心が持てればいいなと思います。

自分で修正できるレベルの課題がいい課題

発達検査では,すぐに正解を出せる場合と,試行錯誤の末に正解にたどり着く場合があります。また試行錯誤しても最後まで正解にたどり着けない場合もあります。授業において子どもが楽しく力をつけていけるものは,子どもなりに試行錯誤の末に正解にたどりつけるような教材でしょう。

大切なことは「正解・不正解」を知ることではなく,「どのように正解を出したか」という「わかり方」に気づくことです。これは普段の授業でも同じだと思います。そしてそのことを教材や授業に反映させて,はじめて検査は生きてくると思います。このように「ちょっと頑張ればできる」というレベルを知るには発達検査はとても役に立ちます。

発達に課題のある子どもは定型発達の遅延版ではない

「発達検査で★才だったから、★才児用の教材を使う」という考えもあるのですが,障害のある子どもの感覚、知覚、運動、情緒をじっくり見ていきますと,非常にアンバランスに発達していることをしばしば発見します。また純粋な知的障害のお子さんは、定型のお子さんと同じように傷つきを感じることも多いので,失敗体験の多さから年齢分以上の傷つきがあったりします。

発達年齢が5歳であったとしても,すでに高校生であれば15年以上の人生経験があるわけで,5才児用の教材をそのままスライドして使ってもうまくいかないことは多々あります。

特別支援の現場で「この教材の次はこれ」といった単純なプログラムが難しい理由は,特別支援学校で学ぶ子どもたちの一人一人の発達のアンバランスさと、次の課題へのステップに対しての想像以上の細かいスモールステップの必要性からです。

発達の不均等さに配慮する

発達につまずきのある子どもが,楽しく取り組みながら力を伸ばせる授業を考えることは私たちの大切な仕事です。個別の指導計画の目標を最大公約数にするというのは、一人一人の発達課題が違うことを考えれば,かなり無理な設定であるということになります。発達の不均衡は放置すれば年齢とともに広がります。得意な分野とそうでない分野の差が広がることで,ちぐはぐな印象を周囲に感じさせます。

特に言葉が使える自閉症スペクトラムなどの場合,不得意なコミュニケーションがまわりとの軋轢を生み,最終的に本人が精神的に追い込まれてしまうケースも少なくありません。もともとは,言葉の外にあるニュアンスがわからないことが不得意だったとしても,結局は、その生徒の行動の問題になってしまいます。

一見、普通に見えれば見えるほど,その行動の突拍子さが周りを驚かせてしまい,最終的には本人の不利益につながります。全体の力を伸ばす視点も大切なのですが,発達の不均衡さに配慮し,その部分への指導をすすめていくこともまた大切です。適切な教育の手だてだけが,子どもたちの発達や人生の質を向上させます。

身体の不均等さへの視点

知的障害特別支援学校では,日常会話もそれなりにできて,色々な作業もそれなりにできる生徒であっても,からだの動きがなんだかバラバラでなんとなくぎこちない印象を受ける生徒にたくさん出会います。実はこれは知的障害によく見られる特性です。麻痺などが別段なくても,自分が思ったように体を動かすというのは,実はとても複雑な感覚や器官の連携が必要なのです。知的な障害を含め,脳のハンディはそのスムーズな連携を妨げます。

その子の不器用さは「しっかり見なさい!」「しっかりやりなさい!」という指導では,解決できないレベルかもしれません。目の悪い人に「めがねに頼らずしっかり見なさい!」とは言わないように,なんとなく全体的な不器用さを抱えている子に,その子に合った支援があれば本当に救われると思います。

こういうタイプの子どもの全体的な不器用さを一番理解してやれるのは,家では親であり,学校であれば担任でしょう。学校は子どもが長い時間過ごす場所です。このような見えにくい「全体的な不器用さ」のような障害にも,さりげなく配慮できる職員集団でありたいものです。

抜く課題・さす課題どちらが簡単ですか

答えは「抜く課題」です。さすよりは抜く方が簡単です。もっと言いますと,「抜く→手渡す→決められた場所に置く→並べて置く→順番に置く」が指導の順番になります。人間の発達には順序があることを考えれば,学ぶ課題にも順序があります。これを飛び越えて授業の課題を設定した場合には,やはりどこかで子どもは無理をして頑張ってくれているかもしれません。

障害特性が改善課題になっていませんか?

めがねをはずして裸眼でがんばろう。」のような無理難題を,
目の不自由な方の目標にはまずしないと思います。ところが知的障害や自閉症は見えない障害ゆえに,「それができたら自閉症の診断おりてないよ。」と思われることを頑張らせてしまうことがあります。

伸びると信じて取り組むことはとても大事ですし,障害特性と言われる部分でもいずれは伸びます。だから信じて少しずつでも前進することも大切です。でもその子の障害特性がなにであるかということを常に意識しておくことは大切です。

教育や療育で改善できる部分と改善できない部分,うまく折り合っていく部分,支援を入れていく部分などを的確に見極めて,子どもが楽に,よりよい状態で学校生活を送れるようになるお手伝いができるといいですね。

獲得してほしい行動の一歩手前を充実させよう

大人同士であっても,見つめ合って「さあ、語り合いましょう。」と言って会話がはずむものではありません。何かを一緒にしたり楽しんだり,一緒に食事をしたりして,同じ場や空気を共有して人と人ははじめて距離が縮まります。

物を介して豊かなコミュニケーション

人への関心が薄い自閉症圏の生徒や,人への関心がまだ育っていない重度の生徒たちにとって,物を介さないダイレクトの人対人とのコミュニケーションはとてもむつかしいものです。このような子どもたちと関わる時には,まず本人が関心をもっている物が鍵になります。本人と物との関わりをまず作って,そこにあとから教師が介在するようにするとうまくいくことが多いようです。

「生徒―物」という二項関係から、「生徒―物―教師」の三項関係に広げていくことを考えれば、いかにこの教材というものが,子どもたちの初期のコミュニケーションにとって大切なものであるかということがわかります。発達検査の結果は,この三項関係の鍵を握る教材を考える際の工夫のヒントをたくさん提供してくれます。

検査から学ぶ授業のヒント

<子どもを安心させよう>

ずーっと先生がしゃべり続けている授業,板書もなく説明も指示も全部ことばの授業,いつ終わるかわからない授業などは,見通しの持てない子どもたちを非常に不安にさせます。想像してみてください。知らない国に留学に行き,知らない言語で先生がしゃべり続けている授業です。いつ終わるのか見当もつかず内容も理解できず,それを質問する手段もない場面です。

この状態に置かれれば大人でも不安になり混乱します。ましてや認知や発達に障害のある子どもであれば,もうその環境から逃げるしか自分を守る術はありません。

子どもに安心感を与えましょう。今日は何をするのかを提示し,終わりをはっきり示します。検査においてもここは大切なポイントです。ゴールが設定できるだけで,子どもの気持ちはとても楽になります。

<「できた!」で始めて「できた!」で終わろう>

例えば,新版K式発達検査では,不通過課題が用紙の縦方向に続き始めるとそろそろ終了になります。しかし,ここで子どもに「できない」「失敗」の感覚を残したまま終了しないこと,子どもに笑顔で終わってもらうことはとても大切です。

これは発達検査に限らず,普段の授業においても共通することです。「子どもができる(と自分で感じられる)課題からスタートし,子どもができる課題で終わる」ことがとても大切です。「今日も最後までよく頑張った!という満足感は「次回も頑張ろう!」と思える大きな原動力になります。

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