新版K式発達検査

【言語・社会領域】言語の不自由さ=イメージが持てない=予測できない

言語・社会領域の低さ
言語の不自由さ=イメージが持てない=予測ができない

言葉が不自由である体験は,言葉の通じない国での旅行に似ているかもしれません。言葉がわからないのでまず情報が入ってきません。そうなると当然次の場面の予測ができません。予測ができないことへの不安,これが言葉の不自由な子どもたちには常にあります。先の見通しが何もないのに次の行動をしなければならない。この体験の連続は誰にとってもすごく不安なことです。言語はどの検査でも発達において重視している項目です。

例えばPEP-3では、コミュニケーションの下位項目として、認知/前言語(認知と言葉の記憶),表出言語(自分を表現する能力),理解言語(話し言葉を理解する能力)の3つを挙げています。

言葉はわかるけど表現できない、言葉は表出しているけど実はわかっていない・・など、言葉の不自由さと一言で言っても,色々な困難さがあります。ことばがないお子さんの苦しさや不安定さは外から見ただけではわかりません。ですから,ある程度こちらが想像力を働かせて,その生徒に対しての手だてや配慮をしていく必要あります。

担当の先生たちが視覚支援を含めたわかりやすい情報提供を常に心がけ続けてくださることは,言語・社会領域の力が低い生徒にとって,本当に大きな救いになっていると思います。

「箱をはさみの上に置いてください」と「はさみを箱の上に置いてください」

簡単に見えますが実はとても難しい課題です。なぜならば助詞によって両者の関係を判断しなければならないからです。視覚に頼って生きている段階の子どもであれば,これはとてつもなく難しい課題です。子どもにすれば,「「はさみ」と「箱」はオッケー。けれどもどっちが上でどっちが下???」となるわけです。

この課題を通過するレベルの生徒ならば,言葉による一斉指導が比較的スムーズにできます。しかしこの課題を通過できないレベルなのに集団行動がとれているように見える生徒がいます。これは教師のことばを理解して動いているのではなく,友だちの動きを見て自分の行動を決定しているのでしょう。集団行動がとれる生徒は一見何でも器用にこなすので,教師もつい安心して「わかっているもの」という対応をしてしまいがちです。けれどもこの課題を通過しない生徒は,K式検査においても言語―社会領域の発達指数はそんなに高く出ないはずです。彼らにきめ細かい言葉の学習の機会が与えられるといいなと思います。

M12[バイバイ] M14「メンメ」 M11[人見知り]

子どもは課題ができたときに先生の顔を見ていますか?大人と子どもが同じものを見ていることを「共同注意」と言います。子どもが自分の行動の前後に大人の表情を見ることを「社会的参照」と言います。これらはコミュニケーションの基礎です。
自閉症の早期発見に「共同注意」のある・なしは重要です。これは乳幼児検診でも必ずチェックしています。

課題がうまくできたときに,子どもが先生や親を意識して振り返って顔を見ているかどうかというのはとても重要なことです。人への気づきがまだない「物―自分」の段階のこどもには,この振り返りはありません。課題がうまくできたときに先生の顔を見るというのは、「物―ひと―自分」の世界ができたということなのです。だから先生は課題がうまくできたときには子どもを大いに褒めてあげてください。自分がやったことで相手も喜んでくれる経験は子どもを大きく伸ばします。この「物―ひとー自分」の関係を深めていくことはとても大切です。

V30 指さし の深~い意味

この検査では「共同注意」を見ています。つまり「自分―ひと―物」の三項関係が成立しているかを見ています。共同注意は社会性の基礎です。改訂版乳幼児自閉症チェックリスト(M-CHAT)でも共同注意はとても重要な質問項目です。

健常のお子さんであれば,共同注意は生後9カ月頃に自然に獲得していきます。(これはしばしば「9カ月の奇跡」と呼ばれています。)しかし9か月たっても何パーセントかの子どもは共同注意を獲得していません。このような追跡調査の結果を自閉症の早期発見早期療育につなげている自治体もあります。もし、受け持っている生徒に指さしの出現があれば、それはコミュニケーションの土台が育っている証拠です。共同注意が出現するのと同時期に,大人の顔を見る行動(「社会的参照」)も出るでしょう。

子どもが新しい行動をするときに自分は不安であっても,そばにいる養育者が笑顔であることで,子どもは大丈夫だと判断して安心して取り組めたりします。特に年少の自閉症児においては,他の発達障害に比べて共同注意の出現が明らかに遅れるというのは多くの研究者が報告しています。でも遅れながらもその子のペースで出現します。子どものどんな小さな社会性の芽生えにも敏感に応じられる職員集団でいたいものです。

V13 「4つの積木」V22-23 と5以下の加算 の 深~い意味

この検査は1から4まで数える能力や,事物と数の対応関係を調べています。子どもが指で押さえる行為と読み上げる数が一致しているかを見ています。授業において,知的な理解がゆっくりの生徒に数を教えることはなかなか難しいです。

「***」と「★★★」と「3」と「さん」が一緒であることはもちろんですが,「*★◆」も同じ「3」である理解は子どもが見た目に惑わされてしまう段階ならば,かなり混乱するかもしれません。

また,「1+1=2」という式は視覚と記憶だけでできますが,V22-23 5以下の加算 のように,「飴を一つ持っています。お母さんが一つくれました。全部でいくつありますか?」と聞かれれば,子どもは言葉からイメージを作って対応せねばなりません。ですから,同じ1+1=2であるにもかかわらず,とたんにできなくなります。

難しい計算ができても,頭のなかのイメージを必要とする問題は苦手である生徒は多いのです。数の指導は,ことばの指導と並んで奥が深く難しいものです。知恵を出し合って一緒に考えていきましょう。

V22~23の「5以下の加算」の深~い意味

「もしあなたが飴を二つ持っているとして,お母さんからあと一つ貰えば,飴は皆でいくつになりますか。」という課題です。2+1=3で3個が答えなのですがこれを紙も鉛筆も使わずに頭の中で答えを出さなければなりません。子どもの目の前にもし実物の飴があれば簡単でしょう。

しかしこの課題は頭の中にイメージ化された対象物で解答しなければなりません。この検査の結果から,それぞれの子どものイメージする力の弱さを指導者側が把握しておくことは,その子どもにどこまで具体的に視覚支援すればいいのかを知る大きな手がかりになります。

V16~19の「数選び」の深~い意味

10個の積木を提示して,「積木を3個だけコップのなかに入れてごらんなさい。」と教示する問題です。検査の順番は必ず
3個→6個→4個→8個の順です。3個→4個→6個→8個のように
だんだん増えていく順番で検査してはいけません。この検査では,言語的発声を伴わずに数えられる数概念の発達を見ています。また「3個」と言われて,入れ終わるまで「3個」ということを覚えておかなければなりませんので短期記憶の力も見ています。

また8個くらいになると2個ずつまとめてコップに入れる子ども,10個から2個引いて残りを入れる子ども,ひとつずつ数えながら入れていく子どもなど,その方略も様々です。同じ「通過」であってもその正解の出し方は子どもにより様々です。検査者が子どもがどんな方略を取るのかをしっかり見ておくことは,結果を支援につなげる際にとても大切になります。

V39 硬貨の名称 3/4  教材の大きさ―大きいことはいいことか?

教材は大きい方が一見いいように思いますが,必ずしもそうでもなさそうです。私たち大人は自分の手の存在を特に意識せずに動かしていますが,ゆっくり発達する子どもたちの中には,自分の手の動きを見ながら作業をしていると思われる子どもがいます。

こういう子どもに対する教材の大きさは、作業中の自分の手が見える大きさでなければなりません。具体的には子どもの肩幅の半分かそれ以下で,右利きならば左手もちゃんと見えるくらいの大きさです。利き手ではないほうの手までしっかり見えることで,子どもは自分がやっている課題を目で確認できるとともに,両手の存在を意識できます。作業している自分の手が見えるということは,子どもの手の運動の安定につながっています。

どんな検査器具も子どもの肩幅を超えるようなものはありません。当然子どもは検査中にはいつも自分の手が見えています。このことはとても大切なことです。

K式検査のV39 硬貨の名称 3/4においても、「子どもの左手側から十円、百円、五十円、一円の順に5㎝間隔で並べる」と実施手引書にあります。この「5㎝」には、きっと深い意味があるのでしょう。間隔が5㎝だと子どもは作業中の自分の手が見えますし,4枚の硬貨の全体像も捉えられます。

V40色の名称 3/4  

「赤と青を見分ける課題」と「赤をください」は全く別のレベル色の学習の授業で,しばしばやってしまうこと間違いに,色を見分ける課題(赤と青を見分けるような課題)と,色を指定して持ってくる課題(「赤をください」のような課題)を
同列に扱ってしまうことがあります。

赤と青を見分ける課題は,触覚と運動で解決できる課題です。対して,「赤をください」は,言語に依存した課題になります。もっと言えばそれぞれの課題では子どもが使っている脳の部分が違います。

授業において,その課題が触覚に依存するものか,運動で解決するレベルなのか,それとも言語に依存する課題なのかを見極めていくことはとても大事です。

例えば,言語-社会領域がとても低い子どもの場合,見てわかる課題は非常に易しく感じているのに,ことばを聞き分けなければならない課題はとても難しく感じています。色分けはできる子どもでも,「赤をください」ができないのは,その課題の中心がことばの理解になるからです。

V40 色の名称3/4 とP81・82 形の弁別Ⅰ 
形の学習・色の学習どっちが先?

形の学習,色の学習,どちらを先にすればいいのでしょう。定型発達児を対象とした実験で,1歳過ぎの子どもに球(赤・青)と立方体(赤・青)の計4個を用意したら,色に関わりなく球に手を出す方が多いという結果でした。

触覚は視覚より先に発達する感覚なので原則から言うと色より形の学習が先かなと思います。新版K式でも、色課題(V40 色の名称3/4)より,形課題(P81・82 形の弁別Ⅰ)のほうが発達の順序で言えば前にあります。けれども特別支援学校では,子どもの興味・関心や実態がそれぞれ違います。色への反応がとても鋭いお子さんもいますし,色はよくわかっているのに,形の弁別学習はなかなか進まない子どももいます。

だから発達の原則を頭に入れつつも,教材選びは一人一人の子どもの実態に合わせていくのが得策かと思います。

V48~50了解Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ ・ V51語の定義
見えないものは見えない・・・・の世界

自閉症の子どもに多いのが,見えないものをイメージとして思い浮かべることができないことです。仮にイメージできてもそれを言葉として発信できません。

K式で言うと、V48~50了解Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ、V51語の定義 あたりが絡むでしょうか。この段階が不通過な子どもは目の前にないものを、イメージのなかだけで操作することは大変難しいのです。

見えるものしか見えない,つまり目に見えないものは理解できないということですから,目に見えない時間や予定,人の気持ち,世の中のルール,常識,暗黙の了解などの理解は大変難しいのです。

でも目に見えるものは理解できます。だからこそ視覚支援がとても有効なのです。特別支援学校には絵や文字などをわかりやすく使った視覚支援教材があふれています。先生方のちょっとしたひと手間で,どれだけの子どもが救われているだろうと思うと,とても温かい気持ちになります。

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